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ケモナーが行う催眠と性感強化の実験


星の降る夜。

マンションの一室で、シャワーの音が響く。


哲也は、お腹に猫のぬいぐるみを抱きかかえながら、彼女の香奈が出てくるのをベッドの上で待ちつつ、本のページをめくっていた。

A5版サイズの本には、丁寧にブックカバーが掛けられていて、タイトルは分からない。

「ふむ……」

哲也のいかにも理屈っぽそうな見た目も手伝って、傍目からは何らかの科学に関する書籍のように見えることだろう。

ベッドの上で学術書に没頭するなんて、勉強熱心にも思える。

……だが、彼が今、無表情で読み進めているものは――。


「……ふぅ」

眼鏡にかかった前髪を掻き上げ、本をぱたりと閉じた。

「メスケモ、最高……」

感慨深げにつぶやいて、彼は天を仰いだ。

本を傍らに置き、猫のぬいぐるみをぎゅうっと抱きしめる。


丸みを帯びたフォルム、しなやかに軌道を描く四肢。

感情を隠し切れない耳と尻尾。

時にらんらんと輝き、時に激しく威嚇する目。

柔らかく、かつ、ほどよい低反発性を持った肉球。

人間の理性的なリミッターが外れた、愛おしい存在。


哲也は、俗に言うケモナーという奴だ。


──ケモノ好きにも色々あるが、彼はケモミミ娘も好きだし、もっとモフモフでケモノに近い形態のものも愛している。

ただし、コスプレ的な「ただ耳と尻尾の飾りをつけただけ」というのは、あまりいただけない。

ケモノの良さの1つである「理性と本能の拮抗、そして本能が理性を上回る」というような葛藤。

これがしっかりと描かれているほうが、好みにピッタリである。


彼が先ほどまで読んでいた本は、コレクションの中でも特にお気に入りの、哲也好みなエロいケモ漫画。

女の子が魔法によってケモノに変身して、自分自身の『野性的な』性欲に目覚めていく、というストーリー。

なかなか肉厚で読みごたえがあって、非常に良くヌける。

「ふ……ふふっ……」

哲也は何度、これに搾り取られたか分からない。


「ケモは、実に……イイ……」

高揚した気分の中で、真面目そうに見えるカバーを再度眺める。

かつて香奈に、「あんまり露骨にそういうの置いておくのは、ちょっと……」と言われて以来、こういったものにはカバーをかけるようにしているために、まるで科学書のようにも見える。


――いや、これはもしかしたら、ある種の科学書なのかもしれない。

哲也は、数週間前から、大真面目にそう考え始めた。

魔術や魔法などというのは、科学的な根拠を理解できないままに現象だけを見た人が、勝手に「この世のものではない」と判断したのが起こりだとも言う。

スマートフォンやパソコンだって、現代人は使いこなしているが、その中身についてキチンと理解できている人間はほとんどいないだろう。

つまり、それらの物は、現代における『魔法』と言っても差し支えはないのではないだろうか?

ならば、俺が『魔法使い』、あるいは『魔法を授けるもの』になることは、決して難しいことではない。


――そうして、哲也は、思いつくままに設計図を引き、わずか2週間足らずで、テーブルの上にある『モノ』を完成させた。


名付けて、ケモミミヒプノ。

プロトタイプ版は、哲也の1番好きなネコ耳型にしてあるから、あえて言うなら「ネコミミヒプノ」である。

これは、催眠により、人間のより原初で本質的な性格を強調し――。

いや、そんな欺瞞に満ちた表現は、適切ではない。

哲也は、眼鏡の中心を中指でくいっと押し上げた。


ケモミミヒプノは、これを付けた対象者の性欲のリミッターを外す催眠洗脳用の器具である。

そして、プロトタイプ型のネコミミヒプノは、行動や仕草もネコっぽくして、時折語尾に「にゃあ」と言わせる暗示の設定も付け加えてみた。

被暗示性の高い人間にコレを付けたら、エロいことがしたくてたまらなくないケモ耳娘の誕生だ。


「ネコミミ、か」

――ケモミミが本物でないのは残念だが……限りなく似たようなものであるため、そう気になることはないだろう。

この器具の耳の部分は、着用者の脳波の反応を利用して、感情の起伏に合わせた動きを表現することができる。

リアクションがあってのケモノ耳だからな、と哲也は口の中でつぶやいた。

(やはり、良いな……)

この実験が成功したら、次は「ケモしっぽ」の開発を進めようと、彼は内心、すでに策を巡らせている。


そして、今シャワーを浴びている香奈は、このプロトタイプ装置の被験者なのだった。

2人は高校時代から付き合っていて、もう何年も経っている。

しかし、夜のほうは、あまりお盛んではない……。

哲也は、自分から誘う柄でもないし、香奈もはっきりと「したい」と言うようなことは、ほとんどなかった。

そのために、2人が交わったのは数回。

お互い、それが余りに不満で、というわけではないが――。


「上がったよー」

香奈がタオルで濡れた髪を抑えながら、シャワールームから上がってくる。

「哲也も入りなよ」

「いやいや」

哲也がふいっと振り返ると、そこには、ふわふわと柔らかそうなピンクの寝間着に着替えた彼女の姿があった。

「っ――!」

これから自分が行おうとしている『実験』の内容を知っているだけに、哲也は瞬時に興奮して、下半身に力が集まっていくのを感じた。


だって、その服のモフモフさ。

パジャマの上下の隙間から僅かにのぞいた、柔らかそうな肉感のある肌。

この後、可愛い顔にネコミミがついて、俺に語り掛けてくるのだ――!

「じっ、実験だって言っただろ」

手で下半身を抑えつけているのがバレないように、背を向けてネコミミヒプノに手を伸ばした。


「ほ、ほら……こっち来て、座って」

「うん」

香奈は、ソファーベッドの上に座ると、彼の挙動を見た。

「実験って、また怪しげな催眠でしょ?」

香奈が笑ったのに対して、哲也は小さな声で「怪しいって言うな」と反論。

「だがな……今日のは、ちょっと興奮するかもしれないぞ」

「興奮?」

彼は振り返って、彼女の頭に……ネコミミヒプノを着ける。


「……似合うな」

「それは哲也が、こういうのを好きだと思っているからでしょ」

ふふ、と軽く笑われてしまったが、確かにそうかもしれない。

だが、そうでなくとも、よく似合っていると感じる。

少しいたずらっぽく笑う白い肌の娘。

大きめの瞳と、すらっと通った鼻筋、少し小ぶりの口は、澄ましたネコの顔に近い。


「で、興奮って?」

「ああ。ちょっと催眠の内容が、その、官能的というか」

正直に言うならば『エロエロになる』くらいが丁度いいのだろうが、そう言っては協力してもらえなくなる可能性が高い。

嘘はついていないが、本当も言っていないラインで許してもらおう。

「……まあ、ちょっと興奮するかも、くらいなら、別にいいけど」

香奈は顔を赤くして、ソファーベッドの背もたれに体を預けた。


「これが終わったら、今日は一緒に寝てくれるんだよね?」

香奈が突然そう聞いてきた。

そう言えばそんな約束もあったな、と哲也は思い返して、「ああ」とだけ答える。

すっかり忘れていた。

だって、この実験が上手くいったら……今夜は『眠れない』だろうから。


「それじゃ、俺は風呂行ってくるから。ちゃんと『催眠』されとけよ」

「はいはい。行ってらっしゃーい」

ゆるゆるっ、と手を振った彼女の姿を確認し、俺は催眠装置の電源を入れた。

しばらく経てば、催眠完了である。

ネコミミヒプノを着けている間は、発情期のメスネコのような「欲しがりやさん」になる……はず。


風呂に入り、シャワーを浴びながら、前回の香奈とのセックスを思い出していた。

……1年以上前に、先っぽだけ入れて、「痛いから止めてぇっ」って泣き叫ばれて終わったんだったよな。

ざあーっと汗を洗い流しながら、わずかに、嫌な予感めいたものが駆け抜けていった。

仮にメスネコのような発情を迎えても、女性器の柔軟性自体は変わらないのではないか、と。

──だとしたら、欲しがっているネコ香奈がオナニーする姿を、俺はただ見守ることになるのでは……?


だんだん体を洗う手が早くなる。

雑に洗っているつもりはない。

むしろ、いつも以上に……そう、特に股間は入念に洗っている。

だが、手が落ち着いてくれない。

香奈の状況を確認したい。

実験の結果を、この目でその成否を、確認したい。


飛び出すように風呂から上がる。

……だが、ここで焦って彼女を呼ぶのは、ちょっと恥ずかしい。

哲也は控えめに「香奈?」と脱衣所から声を掛けた。

――返事はない。


洗面台に置いてある時計をちらっと見た。

時間は大分経過している。

既にネコミミヒプノから出されている催眠音声は終了して、成功か失敗か、その結果は出ているはず。

……これぞまさに、シュレーディンガーの猫、ってか……。

下らないことを自嘲気味に思いながら、哲也は急いで体を拭いて、服を着た。


「香奈ー?」

先ほど香奈がいたはずのソファーベッドに、彼女の姿はない。

鼓動が早くなる。

もし、催眠が上手くいかなかったとしら……けれど、「そこにいない」ということは……?

いや、これまでの香奈の催眠にかかりやすい度合いで言えば、ネコミミヒプノは充分すぎるほどの効果がある。


「香奈ー、おーい」

焦る気持ちを追いやるように、もう1度声をかける。

――がさっ。

「!!」

ソファーベッドの奥に押しやられていた毛布が、もぞりと動いた。

まさか、と思いつつ、俺はゆっくりとそこに忍び寄っていく。


「香奈?」

「にゃぁぅぅ……」

香奈は、毛布に体をこすり付けている。

それも……下着姿で。

寝間着は、その辺に脱ぎ散らかされていた。


「……ちょっとエッチな気持ちって言ったじゃぁん……ちょっとってぇ……」

彼女の顔はすっかり上気し、目もトロンとして、息も荒くなっている。

「にゃんにゃのよ、これぇ……哲也ぁ……!」

耳があちこちへパタパタと動いている。


「不安?」

哲也がそう聞きながら手を伸ばしてあごの下を優しく摩ってやると、「んんぅ……」と小さく気持ちよさそうな声を上げて、彼女は眼を閉じる。

実験は、大成功だ――!

ガッツポーズをとりそうになった哲也だったが、ぐっと堪えて、もう少し香奈の様子を観察することにした。

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